恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈でも、健ちゃん、わたしに嘘をついた〉


わたしは、あのアパートに果江さんが泊まったことを、順也に隠した。


〈忙しい、忙しい。最近、そればかりで、健ちゃんはわたしの気持ち、何も分かってくれない〉


わたしと順也の空間を、夜の風が吹き抜けていった。


白い小人が、藍色の夜空から降りてくる。


雪だ。


順也が、突然、へんな事を訊いてきた。


「たしか、真央は、牛乳が嫌いだったよね?」


わたしは首を傾げながら、頷いた。


牛乳は、苦手。


「自分を分かってもらいたいなら、まず、先に相手の気持ちを分かってあげなきゃいけないよ」


順也の手話は、静かに心に浸透してくるような、優しい手話だ。


「自分を好きになって欲しいなら、まずは、自分を好きになってあげなきゃ」


〈自分、を?〉


わたしは首を傾げた。


順也が肩を震わせて笑った。


「真央が牛乳嫌いなのに、おいしいよって、友達に薦められないよね?」


わたしは頷いた。


頷きながら、ものすごく反省した。


結局、わたしは、いつも自分の気持ちばかり、健ちゃんに押し付けていたのだ、とやっと理解した。


恥ずかしくなった。


溜め息すら出てこなかった。


わたしは、窓枠をきつく握り締めた。


恥ずかしい。