恋時雨~恋、ときどき、涙~

寝室をそっと開けると、ダブルベッドにお母さんが横になっていた。


ドアを静かに開けたつもりだったけれど、音を立ててしまっていたらしい。


お母さんが体を起こした。


「真央」とお母さんの唇が言った。


〈ごめんね。うるさかった?〉


わたしが謝ると、お母さんは首を振って微笑んだ。


「起きてたから。おいで」


わたしはベッドに近寄り、お母さんの隣に座った。


「お帰りなさい」


お母さんは、わたしの頬に手で触れて「冷たい」と笑った。


〈外、寒かったから。お母さんの手は、温かい〉


安心する。


お母さんの手は、宇宙一、優しい魔法だ。


お母さんが心配そうな顔をした。


「どうしたの? 健ちゃんと、何かあったのね」


わたしは、首を振った。


〈何も。どうして、そう思うの?〉


お母さんが、わたしの目を指差した。


「泣いた跡がある」


お母さんはすごいと思う。


わたしの小さな変化に、すぐ気付くから。


だから、お母さんに嘘は通用しない。


わたしは、肩をすくめながら両手を動かした。


〈ケンカ、した〉


わたしは、覚悟した。


ケンカの理由を、訊かれると思ったからだ。