恋時雨~恋、ときどき、涙~

お父さんはタンスからバスタオルを1枚取り出して、わたしの髪の毛を拭きながら言った。


「ただの、風邪、だよ」


わたしは、ほっと胸を撫で下ろした。


お父さんが笑いながら手話をした。


「それより、真央の方が心配だなあ」


〈わたし?〉


バスタオルで髪の毛を拭きながら首を傾げてみせると、お父さんが吹き出して笑った。


「健ちゃんのアパートに、行ってきたんじゃないの?」


わたしは頷いた。


「じゃあ、どうして、そんなにつまらなそうな顔をしているの?」


お父さんも、なかなかするどい。


〈そんなことない〉


わたしは、無理やり笑顔を作った。


健ちゃんとケンカしてしまったなんて、意地でも言いたくなかった。


〈すごく、楽しかった〉


そう手話をして、ふと、ソファーに目をやった時、ある物が目に飛び込んできた。


透明なクリアファイルに、文字がびっしり詰まったA4サイズの紙だ。


〈これ、なに?〉


わたしがそれに手を伸ばした時、先にお父さんが手にした。


「何でもない。会社の書類だよ」


ふうん、とわたしはあまり気にも止めずにソファーに腰掛けた。


でも、すぐに立ち上がり、


〈お母さんの様子、見てくる〉


そう手話をして、リビングをあとにした。