恋時雨~恋、ときどき、涙~

「どうすればいい? どうすれば、おれの話、きいてもらえる?」


冬の冷たい空気が、つーんと肌にしみた。


健ちゃんは、とても悲しそうな瞳をしていた。


でも、逆に、それがわたしの気持ちをますます荒だてた。


〈聴けるわけない〉


わたしの心は、麻酔なしでメスを入れられたように痛かった。


〈だって、わたしには、耳がない〉


わたしは、ぐるぐる、ぐるぐる、らせん階段を駆け下りた。


いちばん下までおりて、わたしはアパートを見上げた。


健ちゃんの部屋の玄関のドアが開き、明かりが漏れる。


でも、その明かりは吸い込まれるように消え、ドアが閉まったのが見えた。


わたしは、甘ったれていたのだ。


すぐに健ちゃんが追い掛けて来て、また、わたしの腕を引っ張ってくれるんじゃないかと、期待していた。


いつものように全身で、わたしを抱きすくめてくれるんじゃないか、なんて。


でも、健ちゃんが追い掛けて来ることはなかった。


わたしは、アパートに背を向けて歩き出した。


真っ暗だった。


歩いている道は街灯が幾つも幾つも並んでいるのに、真っ暗な洞窟を歩いているような気分だった。


わたしは、歩きながら泣いた。


わたしは、分かっていたのだ。