恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈おめでとう!〉


健ちゃんが何かを言おうとしたのを無視して、わたしは玄関に向かった。


ブーツを履いてドアノブを回した時、腕を掴まれた。


振り向くと、健ちゃんが必死に何かを言っていた。


でも、冷静を失っていたわたしには、健ちゃんが何を言っているのか、読み取ることができなかった。


わたしは、健ちゃんの手を無理やり振り払って睨み付けた。


〈分からない! わたし、聴こえない!〉


健ちゃんの声が、聴こえない。


健ちゃんが慌てて手話に切り替えようとしたけれど、わたしは無視した。


健ちゃんの手話を、乱暴な手話でねじ伏せた。


〈分からない! 健ちゃんの言ってることが、全然、分からない! わたし、聴こえない!〉


健ちゃんの両腕が、生気を失ったようにだらりとぶら下がった。


〈わたし、耳が聴こえないんだよ!〉


わたしは、玄関を飛び出した。


部屋を出て右がエレベーター、左がらせん階段になっている。


わたしは左へ向かった。


らせん階段を駆け下りようとした時、腕を掴まれた。


振り向くと、健ちゃんだった。