恋時雨~恋、ときどき、涙~

「ごめん」と謝った健ちゃんは、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。


「でも、何もなかったんけな。それは、本当だんけ」


何もなかった、健ちゃんがそう言うのだから、本当にそうなのだと思う。


でも、頭で理解できても、わたしは感情をうまくコントロールできなかった。


引き潮のように引いたばかりの怒りが、今度は竜巻のように加速してやってきた。


凄まじいスピードだった。


〈何もなかったなら、どうして、嘘をついたの?〉


足の指先から手の先まで、熱湯に浸したように熱い。


〈やましい事があるから、嘘ついたくせに。嘘つき!〉


嘘つき! 、ともう一度手話をして、わたしは言ってはいけないことを両手に表してしまった。


〈まだ、果江さんを忘れられないくせに。あんなわがままな人の、どこが、そんなにいいの?〉


健ちゃんの目が、鋭くつり上がった。


「果江のこと、悪く言うな。果江のこと、何も分からないだろ。果江は、悪い子じゃねんけ」


本物のライオンより、強い目だ。


〈果江さんを好きなら、戻ればいい。アメリカについて行けばいい〉


わたしは、ずっと、たまらなく不安だったのだ。