恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈わ、た、る。本当は、か、え、っていう名前だったんだ?〉


わたし、汚い人間だ。


そう思った。


汚いくらい、意地悪な女だ。


違うんけ、そう言って、健ちゃんは手話をしようとした。


でも、それを畳み掛けるようにわたしは手話をした。


〈忙しい、忙しいって。本当は、果江さんと会うから、忙しかったの?〉


「違うんけ、真央……」


〈泊めちゃうくらい、果江さんに会いたかった。違う?〉


「違うんけ。泊めたのは、昨日だけだ。それに、昨日は仕方なかった」


そんな事は、どうでもよかった。


別に、泊めた理由を知りたいわけじゃない。


ただ、どうして隠したり嘘をついたのかを知りたかった。


わざわざ、亘さんを使うような真似をしてまで、嘘をついた理由を知りたかった。


それを訊くと、健ちゃんの両手が言った。


〈果江が来たなんて言ったら、真央がへんに不安になると思ったんけ〉


それは、そうなのかもしれない。


でも、こんな形で知る事になるくらいなら、一晩中、眠れないくらい不安でいた方がマシだった。


怒る気が引き潮のように、ゆっくり失せていった。


わたしは、肩をすくめた。


〈正直に、言って欲しかった。わたしは、健ちゃんを信じてるから、言って欲しかった〉