恋時雨~恋、ときどき、涙~

「どうした?」


振り向いた健ちゃんは、少し、よそよそしく笑った。


わたしの両手が、緊張で震える。


〈昨日、誰か、遊びに来た?〉


そう手話をして、わたしは唾を飲み込んだ。


健ちゃんの表情が、ほんの少しだけ変わったのが分かった。


「来てねんけ」


健ちゃんの手話から、思わず目を反らしてしまいたかった。


ひどく、がっかりした。


嘘をつかれてしまった。


なんだか、全てがばかばかしく思えて、自分の存在なんてプランクトンよりもちっぽけに思えた。


わたしは、笑いながら溜め息を吐いた。


〈鍵なら、ポストにある〉


健ちゃんは唖然として、立ち尽くしていた。


〈鍵を、探しているんだよね?〉


どうして、健ちゃんは、わたしに嘘をついたのだろう。


悔しくて、悲しくて、切なかった。


健ちゃんと目が合った。


先に反らしたのは、健ちゃんだった。


その態度に、無性に腹がたった。


「亘だよ。亘が遊びに来た。ごめん、隠して」


嘘つき。


返す言葉が、どこにも見当たらなかった。


まさか、こんなにすぐに、再び嘘をつかれるとは夢にも思っていなかったからだ。