恋時雨~恋、ときどき、涙~

テーブルの上を掻き分けてみたり、食器棚を覗いてみたり。


わたしは、握っていた包丁の背でまな板の角を2回叩いた。


健ちゃんが弾かれたように顔を上げた。


〈どうしたの?〉


わたしが首を傾げると、健ちゃんが訊いてきた。


「真央が来た時、鍵、開いてた?」


心臓が飛び跳ねた。


健ちゃんが何を探しているのか、わたしは分かってしまった。


この部屋のスペアキーだ。


この時、自分のとった行動にぞっとした。


〈開いてた。鍵、閉めてなかった〉


嘘を、ついてしまった。


きちんと鍵が閉まっていたこと。


果江さんの置き手紙を見つけたこと。


スペアキーは、ポストの中にあること。


ただ正直に教えてあげることすら、わたしにはできなかった。


「開いてた? そっか」


そう手話をしたあと、健ちゃんの唇が「おかしいな」と動いたような気がした。


健ちゃんはリビングをうろうろしたり、玄関をうろうろしたり、首を傾げながらスペアキーを探していた。


リビングをうろうろしているわりに、果江さんの置き手紙には気付いていない様子だ。


リビングをうろうろしている健ちゃんのところへ行って、肩を叩いた。