恋時雨~恋、ときどき、涙~

向こうの壁に寄っ掛かって、健ちゃんは微笑んでいた。


蟻の行列のように人が行き交う距離を隔てて、健ちゃんが両手を動かした。


「人は、死ぬまで過ちを繰り返す。でも、人は、何度でもやり直しがきくんけ」


静奈が泣いていた。


健ちゃんの手話を見つめて、わたしは心底思った。


わたし、なんていい男を好きになったんだろう。


外見はやんちゃなライオンみたいなのに、健ちゃんの両手には魔法使いが宿っている。


人の背中を押す優しい力が、健ちゃんの手のひらにはある。


突然、健ちゃんが駆け寄ってきた。


「行こう」


どこに? 、と訊く前に、健ちゃんはわたしと静奈の手を掴んで駆け出した。










冬の海岸線沿いは、神秘的だ。


にわか雪。


朝陽が射し込む、穏やかに凪いだ海。


車が停まったのは、海岸線沿いのガソリンスタンドだった。


順也の職場だ。


健ちゃんが、後部座席に座っている静奈に言った。


「行っといで。順也、いるよ」


健ちゃんが指差す先に、順也がいた。


透明なガラス張りの向こうで、パソコンに向かっている。


ガソリンスタンドの制服を着て、ガラス越しに空を見つめて溜め息をついたり、キーボードを叩いていた。