恋時雨~恋、ときどき、涙~

静奈の両手がゆっくり動く。


「来てくれたの? 始発だなんて、教えてないのに」


〈静奈を、失いたくなかったから〉


わたしは、必死に訴えた。


でも、距離とフェンスが邪魔になって、わたしの手話が見えにくいらしい。


静奈が小首を傾げて、難しい顔をしている。


どうしよう。


健ちゃんの大声さえ届かないこの距離で、手話も届かないのなら、どうすればいいのだろう。


静奈の両手が動く。


「真央は、幸せに、なってね」


時間ばかりが無情に過ぎていく。


静奈は、健ちゃんを指差した。


「真央を、幸せにしてあげてください」


わたしは迷った。


どうしようか、迷った。


このフェンスをよじ登って、ホームに飛び込もうか。


でも、高過ぎて無理だ。


健ちゃんが、わたしの肩を掴んだ。


「最後の手段だんけ」


そう言って、健ちゃんはわたしから封書を奪い、中から便箋を取り出した。


「かしてな」


そして、わたしの髪の毛からヘアピンを引っこ抜く。


ヘアピンの片方をくにゃりと折り曲げ、便箋の一番上の部分に突き刺して、さらに、それをフェンスの高いところにくくりつけた。


〈何してるの?〉


わたしが腕を引っ張ると、


「肩車しよう」


と健ちゃんは、わたしの前にしゃがんだ。


「乗れ。それで、その手紙を真央が読め」