恋時雨~恋、ときどき、涙~

今は雪合戦をしている場合じゃない。


頭にきた。


でも、健ちゃんの尋常ではない表情を見て、雪玉はわたしに何かを知らせたい「何か」だったのだと気付いた。


健ちゃんが、フェンスの向こうを指差した。


「いた! 静奈ちゃんだ」


もう一度、つめたく凍り付いたフェンスに飛び付いて、わたしは息を殺した。


静奈。


サラリーマンやキャリアウーマンに紛れ込むように、静奈はホームに立っていた。


淡い水色の大きなキャリーバッグを手にして、白い息を吐いていた。


静奈だとすぐに分かったし、確信した。


やっぱり、静奈は目立つのだ。


黒いツイードのロングコートに華奢な身を包み、ブルーグレー色の瞳をしている。


わたしは焦った。


あと10分で、新幹線がこの町を出て行ってしまう。


わたしは、健ちゃんの肩を強く叩いた。


〈叫んで! 静奈を呼んで〉


できることなら、自分でそうしたい。


でも、わたしにはできないから。


健ちゃんが、フェンスに張り付いて叫んだ。


「静奈ちゃん!」


何度も何度も叫んでいるのに、静奈がこっちに気付く気配すらない。


なぜ?


わたしたち、こんな近くにいるのに。