恋時雨~恋、ときどき、涙~

翌朝、順也が一枚の封書を持って、車に乗り込もうとしていたわたしと健ちゃんに、頭を下げた。


「もし、会えたら、渡して欲しいんだ」


それは、一晩かけて綴られた、順也から静奈宛の手紙だった。


わたしは封書を受け取り、その重さにびっくりした。


厚さとか、そういう物的な重さではない。


この封書には、たぶん、順也の気持ちが全部つまっている。


だから、重たかった。


順也が恥ずかしそうに両手を動かす。


「初めて書いたよ。誰かに手紙なんて」


冬の夜明けは遅く、5時半の住宅街は雪にうもれていた。


順也の両手と唇が、同時に動いた。


「最初で、最後の、ラブレター」


わたしは、肩をすくめる順也の顔を扇いだ。


〈順也?〉


「うん?」


順也が顔を上げて微笑む。


〈一緒に行かない? 順也の手で渡してあげて〉


でも、順也はただ笑って首を振るだけだ。


「ぼくは、今、ものすごく後悔してるよ。どうして、しーを手離したのかって」


順也の両手を見つめている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。


東の上空が明るくなり始めていた。


「手を離すのは簡単だけど。一度離してしまった手をつなぐのは、難しいんだね。悔しいよ」