恋時雨~恋、ときどき、涙~

「もう、決めたことだから。ごめんね」


静奈は唇を噛んで走り出した。


わたしも健ちゃんも、順也も。


誰も静奈を追い掛けようとしなかった。


追い掛けようとしなかったのではなく、できなかったのだ。


体が動いてくれなかった。


固まり続けるわたしたちを一度も振り返らずに、静奈は車がで去って行った。


わたしたちはただ愕然として、冬の陽射しに打ちのめされていた。


どうして、現実は、ドラマや映画のようにうまくいかないのだろう。











その日の夜、家に健ちゃんがやってきた。


また、お父さんとオセロの対決でもしに来たか、それとも、わたしを励ましに来てくれたのか。


そのふたつのうちのどちらかだと思っていた。


わたしは、ご飯を食べる気力さえないほど落ち込んでいた。


だって、静奈を失おうとしているのだから。


メールをしても返事はないし、明日発つと言われても、何時に、何で、発つのかすら分からない。


リビングのソファーに座りながら、健ちゃんが手話を始めた。


「たぶん、だけど。静奈ちゃんは、新幹線で発つんじゃないかと思う」