恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんの口元から、白い八重歯がこぼれた。


「今の、ありがとうっていう意味の手話?」


わたしは頷いた。


健ちゃんは、わたしの真似をして「ありがとう」と手話をしたのだと思う。


でも、それがあまりにも下手くそで、可笑しくてたまらない。


わたしは、笑いながら砂に書いた。


【へたくそ】


砂に書かれた文字を見て、なにーと健ちゃんが顔を赤くした。


「あのさ、おれ、バカだんけ。手話、分からねんけ」


健ちゃんの唇を読んで、わたしは頷いた。


「でも、真央が不便なら、手話、勉強する。友達だんけな」


わたしは、首を振ってから微笑んだ。


健ちゃんの唇を読んで、その気持ちだけで十分だと思った。


別に、手話じゃなくても方法はあるから。


この人が苦労する必要なんて、ないのだ。


今までだって、そうしてきた。