恋時雨~恋、ときどき、涙~

階段を上りきった手すりのところに、健ちゃんが居たからだ。


自慢のライオンのような髪の毛は、霧雨に吹かれてボリュームを失っていた。


ぺしゃんこ。


この12月の寒さだというのに、上着すら羽織っていない。


シャツにジーンズという、非常識な格好を健ちゃんはしていた。


「何してるんけ」


白くこぼれる八重歯が、冬の重い灰色の空によく映える。


「そんなに慌てて、どこ行くんけ」


健ちゃんが手話をしているからなのだろうか。


健ちゃんの背後を足早に行き交う人たちが、振り返りながら物珍しそうな顔で、健ちゃんを見て行く。


それでも、健ちゃんは全く気にしていない様子だ。


あっけらかんとしている。


「どこ行くんけ」


わたしは、両手を動かした。


〈ちょっと、そこまで。健ちゃんこそ、どこに行くの?〉


健ちゃんが、背中を真っ直ぐに伸ばした。


「おれは……散歩だんけ。いい天気だんけなあ」


散歩なんて、嘘だ。


わたしは笑ってしまった。


こんな寒い夕方に、そんな薄着で散歩をする人なんて、まず、居ないだろう。