恋時雨~恋、ときどき、涙~

「そんなこと言っても無理か。しゃべれる? けんちゃん、て言える?」


わたしは苦笑いをしながら、首を振った。


昔、手話を習うついでに、唇読と言葉教室にも通っていたけれど、途中で諦めてしまった。


手話と唇読は練習すればするほど、上達した。


でも、発声だけは、どうしても上手になれなかった。


勇気を出して、親戚の人たちの前で声を出した事があった。


でも、笑われてしまった。


その時からは一言も、一切、声を出せなくなってしまった。


しゃべる事を、わたしは簡単に諦めたのだ。


だから、もう、声の出し方なんて忘れてしまった。


秋の稲穂のように垂れたわたしの頭を、大きくて優しい手が撫でた。