恋時雨~恋、ときどき、涙~

「耳が聴こえなくても、真央には手がある。目が、あるじゃない」


お母さんが、わたしの頬を静かに撫でる。


「どうせ帰って来るなら、笑顔で帰ってきなさい。お母さん、家で待ってるから」


わたしは頷いて、走り出した。


もう一度、あの無邪気であっけらかんとした笑顔と向き合うために。


来た裏路地を戻っていたら、本当に日が暮れてしまう。


大通りに出て、歩道橋を渡って、2本目の路地を抜ければすぐに健ちゃんのアパートだ。


絶対に、その方が早い。


大通りは車の通りや人通りが激しいから避けるように、と順也は口癖のようにわたしに言う。


危ないからだ。


でも、たまには無茶をしなければいけない時があるのかもしれない。


わたしは、本能に従う動物のように大通りへ飛び出した。


すごい。


わたしは大きく息をした。


吸う。


吐く。


吸う、吐く。


3車線の大きな車道は、空港の滑走路のように広く見えた。


こちらの歩道も、道路を挟んで向こうの歩道も、まるで歩行者天国のようにたくさんの人が練り歩いていた。


車道は、パレードのように賑やかだった。