恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈耳が聴こえていたら、違っていたのかな〉


そう手話をして、わたしは後悔した。


これじゃ、こんな耳に産んだとお母さんを責めているようなものだ。


わたしは慌てて〈ごめんね〉と手話をした。


でも、お母さんは全く気にしていない様子で、にこやかに笑っている。


「真央が謝ることないよ。ごめんね。お母さんのせいだね」


わたしは強く首を振った。


〈違う〉


お母さんのせいじゃない。


〈誰のせいでもない〉


お母さんはとびっきりの笑顔で、胸を張った。


「真央をこんなふうに産んで、ごめんね。でも、お母さんは何も後悔してない。真央を産んで良かったと思ってる」


それは、わたしも同じだ。


耳は聴こえないけれど、この世に産んでくれたお母さんに感謝している。


〈わたしも、生まれてこれて嬉しい。ありがとう〉


「良かった」とお母さんは微笑んだ。


つめたい霧雨が、優しく肌に吸い付いた。


「真央?」


お母さんが、わたしの顔を手で扇いだ。


「健ちゃんと、仲直りしてきなさい」


わたしは何も答えずに、顔を歪めた。


仲直りはしたい。


でも、どうやってしたらいいのか、分からない。