恋時雨~恋、ときどき、涙~

突然、お母さんが立ち止まった。


わたしのお腹の辺りをじっと見つめている。


「どうしたの? それ」


しまった、と思った。


冷静を失って、コートを着るのも忘れていたのだ。


わたしは慌てて両手を動かした。


〈飲み物、こぼしちゃった。ごめんね。せっかく、お母さんが買ってくれたばかりだったのに〉


わたしが肩をすくめると、お母さんが微笑んだ。


「洗えばとれるよ。まだ、時間経ってないもの。大丈夫よ」


早く帰ろう、とお母さんは歩き出した。


わたしもすぐに追い掛けて、お母さんの背中を叩いた。


〈本当は、健ちゃんともめた〉


「え?」


お母さんの目が曇った。


それでも、わたしの手は止まらなかった。


〈やっぱり、わたしと健ちゃんは、違い過ぎるのかな〉


お母さんの目を見ていられなくて、わたしはうつ向いた。


雪が雨に溶ける、みずみずしい匂いがした。


お母さんが、わたしの肩を叩いた。


微笑んでいる。


「真央は、健ちゃんのことが大好きなのね」


わたしは頷いた。


〈だから、不安。どんなに努力しても、健ちゃんに追い付けない〉


耳が、聴こえないから。