恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、果江さんを睨んだ。


でも、果江さんがたじろぐ様子はなかった。


平然としていた。


「私は治せるけど、あなたは無理でしょ。どんなに頑張っても、耳は治らないでしょ」


悔しくてたまらなかった。


その通りなのだから。


「もう、いい加減にしてよ」


汐莉さんが床を踏んだ。


誰もが息を詰まらせているのが分かった。


わたしが泣いたからだ。


健ちゃんと順也の前以外で、無防備に泣いたのは初めてだった。


わたしは、涙を止めることができなかった。


耳が聴こえないわたしでは、果江さんの言う通りなのかもしれない。


健ちゃんを幸せにはできない。


そんな事を真剣に考えた。


ひどく、惨めだった。


泣いている自分に吐き気がした。


健ちゃんが、わたしの腕を掴む。


振り払う前に、わたしの体は健ちゃんの腕の中にあった。


健ちゃんが、わたしを抱きすくめてくれた。


でも、わたしは、その胸に違和感を覚えた。


違う。


健ちゃんの匂いじゃない。


この腕は、さっき、果江さんを抱きしめた腕だ。


果江さんの匂いがした。


わたしは、健ちゃんを強く突き飛ばした。