恋時雨~恋、ときどき、涙~

それに、わたしが居ない方が、話をしやすいんじゃないだろうか。


わたしは、健ちゃんの肩を叩いた。


〈今日は、帰るね。また今度、改めて、引っ越し祝いしよう〉


健ちゃんの表情が雲っていく。


「待って。果江が帰ったら、ふたりで話したいことがあるんけ」


わたしは首を振った。


〈また今度にしよう。今日は、果江さんと、みんなと、ゆっくり話した方がいい〉


「けど、真央に話したい事があるんけ。大切なことだんけ」


大切なこと……?


わたしは首を傾げた。


その時、果江さんがわたしの腕に掴みかかった。


「お願い! お願いだから、返して」


果江さんの表情には、切羽詰まったものがあった。


「健ちゃんを返して。私は、健ちゃんが必要なの。お願いします」


わたしは頷くことができなかった。


わたしだって、同じだ。


健ちゃんが必要なのだ。


「私、努力する。手術をして、今より元気になる。今度こそ、健ちゃんを傷付けたりしないから」


胸が苦しかった。


でも、わたしは頷くことができない。


わたしは首を振った。


果江さんが、わたしの腕を離した。


「あなた、健ちゃんを幸せにできるの? 耳が聴こえない、あなたに」