恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしのワンピースを濡れたタオルで拭く汐莉さんの手が、震えていた。


突然、汐莉さんがハッとした顔をして、立ち上がった。


果江さんが唇をきつく噛みながら、右の頬を手で押さえている。


亘さんの左手のひらが、少しだけ、赤くなっていた。


「なによ! 殴ることないでしょ!」


「果江」


鋭い槍のような目付きで、果江さんは亘さんを睨んでいた。


「自分の言ったことの意味、分かってるのか? お前、最低なこと言ったんだよ」


亘さんは、果江さんの肩を掴んで悲しい目をしていた。


わたしをかばうように立ちはだかる健ちゃんの背中が、微かに震えていた。


車椅子の細い車輪が、わたしの前に停まった。


顔を上げると、順也が微笑んでいた。


「全然、気にすることないよ。服、汚れちゃったね。シミになるまえに着替えないと」


順也の笑顔は、わたしの気持ちをやわらげる不思議な効力がある。


「着替えておいで。待ってるから。戻ったら、一緒に料理をしよう。ね」


わたしは、首を振った。


〈今日は、もう帰る〉


なんだか、疲れてしまった。


何も考えずに眠ってしまいたい。