恋時雨~恋、ときどき、涙~

汐莉さんが濡れたタオルを持ってきて、わたしのワンピースを拭いてくれた。


ワンピースには焦茶色のシミが広がって、皮膚が熱い。


テーブル越しから、果江さんがわたしの肩を突いた。


「いい子ぶらないで! 本当は、わたしがここにいるのが、気に食わないくせに。きれいごと言わないでよ!」


健ちゃんが、腕でわたしをかばってくれた。


果江さんの手のひらが飛んで来そうだったからだ。


果江さんが、わたしを睨む。


「聴覚障害者が、普通の人を幸せにできるわけないじゃない!」


尋常ではないほど、果江さんは興奮していた。


目が血走っていた。


健ちゃんも立ち上がり、果江さんに何かを言っている様子だ。


果江さんの唇が震えていた。


「私は、手術をすれば健康になれる。けど、この子は一生、耳が聴こえないのよ! 健ちゃん、分かってるの?」


ショックだった。


目の前が真っ黒に閉ざされてしまったような気がした。


果江さんの言っている事は、もっともな事だ。


それは、自分でもよく分かっているつもりだった。


でも、今日ほど思い知らされたことはない。


わたしは、絶望に打ちのめされそうになっていた。