恋時雨~恋、ときどき、涙~

「健ちゃんが、どれだけ傷付いたか分かる? 健ちゃん、やっと立ち直ったの。ねえ、果江」


肩をすくめて小さくなった果江さんを、畳み掛けるように言う汐莉さんの腕を、わたしは掴んだ。


汐莉さんと目が合う。


わたしは、首を振った。


健ちゃんに通訳をお願いしてから、わたしは手話をした。


〈もう、いい。果江さんも、辛かったと思う〉


汐莉さんは溜め息を落として、座り込んだ。


キッチンの方に気配を感じて見てみると、順也が顔を覗かせて微笑んでいた。


「ぼくも、そう思うよ」と順也の両手が言った。


わたしは頷いて、微笑みを返した。


順也の顔が強張った時、わたしは健ちゃんに腕を引っ張られた。


何が起きたのか、分からなかった。


汐莉さんが、慌ててキッチンに駆け出した。


自分の顔が歪んでいるのが分かる。


熱い!


硝子テーブルの上は茶色の水溜まりができていた。


薄くおぼろげな湯気が、硝子から立ちのぼっていた。


心拍数が急激に上がった。


果江さんが、わたしにコーヒーをかけようとしたらしかった。


でも、直前に亘さんに止められて、コーヒーはわたしのお腹の辺りにかかった。