恋時雨~恋、ときどき、涙~

「真央っていうんけ。夏の終わりから付き合ってる。おれは、真央と、別れる気はねんけ」


果江さんが、華奢な肩をすくめた。


「果江。早く、アメリカに戻った方がいんけな。手術、うけろ」


健ちゃんの言葉に、亘さんが頷いていた。


「手術うけて、元気になったら戻って来ればいんけ。そしたら、こっちで暮らせばいい。おれも、亘も、待ってるんけな」


健ちゃんの両手を見つめていると、目の前を何かが通過した。


それは、果江さんのパスポートだった。


パスポートは健ちゃんの肩にぶつかって、床に落ちた。


果江さんが大きな声を出したのだと分かった。


怖い顔をして、大きな口が動いていたからだ。


「嫌! 帰らない。手術なんか受けない。健ちゃんと一緒にいる」


果江さんは目を潤ませながら、健ちゃんを睨み付けた。


健ちゃんはパスポートを拾って、硝子テーブルの上にそっと置いた。


「手術は受けなきゃだめだ。いつ倒れてもおかしくないんだろ」


ひどく心配した面持ちだった。


亘さんの唇が動く。


「果江」


亘さんなりに、わたしに気遣ってくれているが、手にとるように分かった。