恋時雨~恋、ときどき、涙~

「だから、健ちゃんは、この子をほっとけないんだね」


と果江さんは無邪気に笑った。


「健ちゃんの新しい彼女が健康な人なら、奪ってやろうと思ったのにな。これじゃあ、無理か」


息が詰まった。


顔を歪めるわたしに、果江さんは畳みかけるように言った。


「そんな顔しないでよ。大丈夫よ。無理やり取り返したりはしないから」


わたしは、何も言い返せなかった。


それよりも、言葉が見つからなかった。


健ちゃんがわたしの肩を叩いた。


「亘が」


わたしは、亘さんを見つめた。


「ごめんね。果江は、わがままに育ったから。遠慮とか知らないんだ。悪気はないから」


わたしは小さく頷いた。


果江さんを見れば、少し、分かる気がした。


たぶん、相当、大切にされてきたのだろう。


果江さんの過去は分からないけれど、目や皮膚や、その容姿や、品のいい雰囲気から、愛情がにじみ出て見えた。


健ちゃんが、わたしの顔を大きな手で仰いだ。


「真央? ちゃんと、きいていて」


そう言って、健ちゃんは両手を動かしながら唇も動かした。


果江さんには声で、わたしには手話で、健ちゃんが言った。