恋時雨~恋、ときどき、涙~

「私、嫌なの」


わたしと順也は、目を合わせた。


「果江のこと、嫌いなわけじゃない。けど、果江の帰国は賛成できなかった」


そう言って、汐莉さんはうつ向いてしまった。


わたしは、順也の肩を叩いて〈どうして?〉と手話をした。


順也が手話を訳すと、汐莉さんは切なげに唇を動かした。


「健ちゃんだけじゃない。亘も。みんな、果江しか見えなくなる」


その意味を、わたしも順也もよく理解できなかった。


その時、リビングから人影が現れた。


健ちゃんが、手をゆっくり動かした。


「真央、リビングに来て。大切な話があるんけ」


なぜだか分からない。


わたしは、とっさに首を振っていた。


汐莉さんも表情が固い。


順也が、わたしの肩を叩いて微笑んだ。


「信じる」の手話をしている。


「約束、したよね。真央は、健太さんを、信じるんだよね」


わたしの心は不安に押し潰されて、原型をとどめていなかった。


でも、頷いて、わたしは立ち上がった。


健ちゃんの背中を見つめながらリビングへ行き、硝子テーブルの前に正座した。


正面には果江さんが座っている。