恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしの手から、ボウルが滑り落ちる。


健ちゃんの長い腕が、果江さんを抱き締めていた。


夢を見ているような光景だった。


わたしは、幽体離脱してしまったのかもしれない、と思った。


宙にふわふわ浮きながら、客観的に事態を見つめているような感覚だった。


泣いて抱き締め合いながら、床にへたり込む2人。


目を伏せて、玄関に立ち尽くしている、亘さん。


その亘さんの体を突き飛ばして、怖い顔で健ちゃんを睨み付ける、汐莉さん。


時間が止まったんじゃないか、と不安になった。


健ちゃんが教えてくれたたくさんの音が、見えなくなった気がした。


わたし、ここで、何してるんだろう。


汐莉さんの唇が言った。


「亘は結局、果江の味方ばかりするんだね。甘やかしてばかり。だから、嫌だったの。果江を連れてくるのは、間違いだったんだよ」


小さな両手で、汐莉さんは、亘さんの体を突き飛ばした。


亘さんは声を失ったように、ただ、黙り込んでいた。


玄関から、冷たい空気が忍び込んでくる。


冬の、辛い匂いがした。


健ちゃんの背中に、見たことのないきれいな手が回っていた。