恋時雨~恋、ときどき、涙~

その時、わたしの目に飛び込んできたのは、ラフな私服姿の亘さんだった。


なんだ。


亘さんじゃないか。


わたしは微笑んで、亘さんにぺこりと頭を下げた。


亘さんの唇が動く。


「真央ちゃん……ごめんね」


なぜ、亘さんが謝ってきたのか分からなかった。


亘さんはばつの悪そうな顔をして、わたしから目を反らした。


わたしは、健ちゃんの肩を揺すりながら、身を乗り出して息を呑んだ。


健ちゃんの頬が濡れている。


健ちゃんは唇を強く噛んで、泣いていた。


愕然とした。


健ちゃんの唇が、わたし以外の女の子の名前を言ったのだ。


その名前を、わたしはいちばんおそれていた。


「かえ」


わたしはハッとして、立ち尽くした。


足が動かなかった。


外は、重たい雪が降っているのだと分かった。


亘さんの背後から遠慮がちに現れた人の艶やかな髪の毛に、雨雪が薄くつもっていた。


暖かそうな桃色のロングコート。


「けんちゃん」


その人の形のいい唇が、そう言った。


お母さん譲りのわたしの目に、少しだけ似ていた。


華奢な体が、健ちゃんの胸に飛び込んだ。


「健ちゃん、会いたかった」


わたしは、目を伏せてしまった。