恋時雨~恋、ときどき、涙~

熱い湯気に香ばしいにんにくの香りが溶けて、わたしの鼻を突き抜ける。


健ちゃんが、わたしの肩を叩いた。


「じゅわー。じゅじゅじゅー」


何かを炒めると、そんな音がしていたのか。


炒めるのが楽しくなった。


木べらをすべらせる。


じゅわー。


木べらをすべらせる。


じゅじゅじゅー。


料理って、いろんな音があるんだな。


〈玉ねぎ、とって〉


テーブルの上に置かれた玉ねぎ入りのボウルを指差すと、健ちゃんは鼻をつまみながら首を振った。


「玉ねぎは、鼻が痛くなるから、いやだんけ」


〈それは切るとき。いいから、取って〉


「真央は狂暴だんけ」


わたしに睨まれた健ちゃんは、慌てた様子でテーブルに向かった。


その時、どうやらインターホンが鳴ったらしい。


「誰か来た」


と健ちゃんが玄関の方向を指差した。


「順也か、亘たちか。真央はどっちだと思う? おれ、亘たちに100円」


うーんと短く考えるジェスチャーをして、わたしは〈順也に100円〉と笑った。


行ってくる、と健ちゃんはうきうきしながら玄関へ走って行った。


待って、とわたしが手を伸ばしていることにも気付かずに。