恋時雨~恋、ときどき、涙~

それから、わたしと健ちゃんは仲良くキッチンに立った。


シチューを作ることにした。


わたしは、水道水でじゃがいもに付いていた土を洗い流していた。


横で、健ちゃんが人参に包丁を入れているのを見て、息が止まる思いだった。


健ちゃんは目を血走らせながら、人参を大口に切っている。


わたしは冷や汗をかいた。


恐ろしいその手さばきに、息を呑んだ。


〈危ない! かして。わたしが切るから、健ちゃんはじゃがいもを洗って〉


わたしは、健ちゃんから包丁を奪い、腰で突き飛ばした。


わたしが人参に包丁を入れると、健ちゃんが指文字をした。


「とん、とん、とん」


わたしは首を傾げた。


〈なに?〉


「とん。まな板と包丁がぶつかる音だんけ」


わたしは、急に楽しくなった。


野菜を切ることを、こんなに楽しいと思ったのは初めてだった。


とんとんとん。


とんとんとん。


野菜を切ると、そんな楽しい音がするのか。


とんとんとん。


お鍋にみじん切りにしたにんにくを、ほんの少々入れる。


コクを出すためだ。


木べらで撫でるように炒める。