恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは唇を噛んで、玄関に向かった。


お気に入りのブーツに足を通そうとした時、右肩を叩かれて振り向くと、健ちゃんが手のひらを突き出してきた。


わたしは、瞬きをした。


健ちゃんの大きな手のひらに、小さな鍵がひとつ乗っていた。


ぽかんとしていると、健ちゃんはわたしの両脇を抱えて立たせた。


健ちゃんが、わたしの手のひらに鍵を置いた。


「真央の分だんけ。これ、合鍵」


わたしは泣きそうになった。


「この部屋を借りたのは、ちょっとわけがあるんけ。でも、ちゃんとした計画だんけな」


わたしは首を傾げた。


〈計画?〉


「それは……まだ言えねんけ。でも、いずれ必ず言うんけな。待っててくれないか」


健ちゃんは微笑んでいたけれど、真剣で真っ直ぐな目をしていた。


わたしは手のひらを見つめた。


〈これ、わたしが持っていてもいいの?〉


当たり前だんけ、と健ちゃんはあっけらかんとして笑った。


「会いたい時は、いつでも来ていんけな」


健ちゃんが、わたしの体を引き寄せた。


健ちゃんの匂いは、優しい。


大好きだ。


わたしは、健ちゃんの背中に両手を回して、きつくしがみついた。