恋時雨~恋、ときどき、涙~

「へん?」


〈急に一人暮らしはじめて、わたしに何か隠してる〉


本当に最近、健ちゃんはよそよそしい。


わたしは、健ちゃんを睨み付けたあと踵を返してリビングに戻った。


健ちゃんがわたしの腕を引っ張る。


「なに、そんなに怒ってるんけ。最近の真央こそ、怒ってばっかだんけ」


それは、健ちゃんがよそよそしいからだ。


何で、こんなに能天気なのだろうか。


わたしは、ちょっとしたことで不安になるのだ。


普通じゃないから。


耳が聴こえないから。


いつか、健ちゃんに愛想をつかされるんじゃないかって。


わたしは、健ちゃんの腕を振り払った。


〈別れたいなら、そう言えばいいのに。わたし、ちゃんと言うこときくよ〉


疲れた、冷めてしまったというのなら、それは仕方のないことだ。


別に、しつこくして健ちゃんを困らせるつもりはない。


〈帰る〉


鞄を手にして、わたしは立ち上がった。


健ちゃんは困ったような顔をして、わたしを引き止めようともせずに寝室に入って行った。


ショックだった。


本当に突き飛ばされたわけでもないのに、体を突き飛ばされたような感覚に襲われた。