恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんはわたしを無視して、機嫌良さそうに食器を選んでいる。


わたしは、健ちゃんの背中を突き飛ばした。


健ちゃんが、食器棚に額をぶつけた。


「何するんけ」


〈健ちゃんひとりだけなのに、部屋、ひとつ余ってる。お金の無駄だと思う〉


一人暮らしに合った部屋ってものがあるだろうに。


家賃だって、安く上がるに決まっている。


わたしは、健ちゃんを睨み付けた。


健ちゃんはやれやれと溜め息をついて、ようやく手をわたしに向けた。


「しつこい女だんけ」


そう手話をして、わたしの額にデコピンをした。


わたしは、健ちゃんの膝を蹴っ飛ばした。


〈健ちゃんて、意外と計画性がないんだね〉


なにー、と健ちゃんが胸を張った。


塗り壁のようだ。


〈なによ!〉


わたしも負けずに睨み返した。


〈隠し事はするなって、健ちゃんは言った。うそつき〉


わたしがケンカ越しに乱暴な手話をすると、健ちゃんが困った顔をした。


最近、わたしたちは小さなケンカばかりしている。


近くにあった玉ねぎを手にとり、それを健ちゃんに投げ付けてやった。


〈最近の健ちゃん、へんだよ!〉