恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしにとって、これ、は両手と同じくらい大切な物だ。


文字を打てば話ができるから、手話と同じくらい大切な物なのだ。


ライオン丸がわたしの肩を2回、叩いた。


顔を上げて睨み付けてやると、ごめん、とライオン丸は言った。


「勝手に、赤外線で、番号とライン交換をしました」


わたしは慌てて、登録してあるアドレスをスクロールした。


数少ないアドレス帳に、確かに、初めて目にする氏名と数字とアルファベットがあった。


西野健太。


ライオン丸の名前だと、すぐに分かった。


わたしはライオン丸を睨んで、消去しようと決めた。


この人と友達になる気は、これっぽっちもないからだ。


静奈と順也さえ居てくれれば、わたしは幸せだ。


突然、ライオン丸は再びわたしからスマホを取り上げた。


「消す気だろ?」