恋時雨~恋、ときどき、涙~

お父さん、ああ見えて、健ちゃんのことが好きなのよ、とお母さんがおつまみを作りながら手話をした。


わたしはリビングのソファーに腰掛けて、読み掛けの小説を開いた。


でも、とたんに胸が苦しくなった。


小説を閉じて、表紙のタイトルを見つめる。


赤い、いや、朱色の表紙だ。


冷静と情熱の間、という分厚い小説。


これは朱色と青色の2冊になっている。


女性が主人公目線で書かれてある朱色と、男性が主人公目線で書かれてある青色と。


片方ずつ、ふたりで買った小説だ。


青色の方は、静奈が読んでいるはずだ。


毎日、同じページ数を読み進めて、次の日に短大で報告しあっていた。


静奈が学校に来なくなってから、先に進めていない。


静奈。


また、会えるのだろうか。


そして、この小説を同じペースで読み進める事が再開する日は来るのだろうか。


わたしは小説をソファーに投げ出して、窓辺に立った。


窓を開ける。


外は相も変わらず、雨だ。


少し強い、優しい時雨。


ふと、顔を上げると、隣の家の2階に温かい電気が灯っていた。


順也の部屋だ。