恋時雨~恋、ときどき、涙~

「やべー! 殺されるんけ」


健ちゃんは慌てて車を飛び出した。


わたしは笑いながら、その様子をウインドウ越しに伺った。


お父さんがすごい剣幕で、健ちゃんに何かを言っている。


健ちゃんは雨の中、ぺこぺこ頭を下げていた。


家の玄関先で、お母さんがお腹を抱えて笑っているのが見えた。


わたしは車を降りて、お父さんの腕を引っ張った。


〈お父さん! 邪魔しないで〉


わたしが手話をすると、お父さんは悲しい顔をして肩をすくめた。


「邪魔って、お父さんが邪魔なのか? お父さんよりも、健ちゃんがいいのか?」


お父さんは焼きもちやきで、本当に繊細なのだ。


健ちゃんと付き合うことになった時も、


「真央はやらん!」


なんて言っておきながら、今は健ちゃんとそこそこ仲良しだったりする。


たまにラインをしているらしいし、お酒だって一緒に飲む仲だったりするのだ。


〈健ちゃんのこと怒るなら、嫌いになるからね〉


わたしが睨むと、お父さんは背中を丸めてしゅんとしてしまった。


健ちゃんが大きな口で笑った。


「結局ね、親より彼氏なんですよ。父さん」