恋時雨~恋、ときどき、涙~

「幸のこと、責めないでね。私が口止めしたんだから。幸は、何も悪くない」


わたしは頷いた。


健ちゃんが悔しそうに唇を噛んで、うつ向いた。


静奈が手話した事は、衝撃だった。


「幸は、もうこの世界から抜けると思うから、安心して」


わたしは目を見開いて、静奈の両手を見つめた。


「今日の昼頃、幸の彼氏、亡くなったから。もう、お金貯める意味もないだろうから」


わたしはハッとした。


「自殺、らしいよ」


今日、午前の講義を終えてすぐ、幸は帰って行った。


しかも、笑顔で。


いつもと何ひとつ変わった様子はなかった。


「これ以上、幸を忘れてしまう自分を感じるのは嫌だって。ごめんねって。遺書が残ってたって」


わたしは思い出していた。


幸が、彼氏とした約束のことを。


ハワイに行って、黄緑色の夕陽を見るんだと、幸は嬉しそうに言っていた。


今、幸がどんな顔をしているのか、想像もつかなかった。


体が震えた。


わたしは、静奈に駆け出していた。


〈順也に会いたくないの?〉


明日、何が起こるか分からないこの世界は、命の保証すらないのだ。