恋時雨~恋、ときどき、涙~

もうだめかもしれない、そう思った時、急に呼吸が楽になった。


わたしは大きく空気を吸い込んだ。


立ちくらみよりも激しい目眩に襲われる。


健ちゃんが、静奈を押さえ付けていた。


わたしはベッドから飛び起きて、健ちゃんを突き飛ばし、再び静奈をベッドに押し倒した。


静奈の細い首に、両手をかける。


でも、力を込めなかった。


静奈の両手が動く。


「殺せば? 憎いでしょ? 真央の幼馴染みの足を奪った女が、憎いでしょ?」


静奈。


静奈。


何度も何度も、声にできないその名前を心の中で叫んだ。


静奈。


わたしは、静奈を憎いと思ったことは一度だってない。


高校生になって不安と孤独だったわたしに、何の隔たりもなく話し掛けてきてくれたのは、静奈だけだった。


いつも、このきれいな両手と天真爛漫な笑顔が、わたしを救ってくれた。


どうして、静奈はこんなに悲しい目をするようになってしまったのだろう。


わたしにできる言葉は、ひとつしかなかった。


それくらいしか思いつかなかった。


わたしは、静奈の首から手を離して手話をした。