恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんは何もせず、わたしと静奈をそっと見守っていた。


でも、苦しそうに表情を歪めていた。


わたしの髪の毛も、静奈の髪の毛も、山姥のように逆毛立っていた。


〈お願い! もう、やめてよ! どうしてこんな事してるの〉


わたしが手話をすると、静奈は冷たい笑顔になった。


「もう、面倒なの! 真央と一緒にいると疲れる。手話するのが面倒なの」


静奈は手話をしたあと、わたしの体を突き飛ばした。


そして、今度は静奈がわたしに馬乗りになる形になった。


「私は、もう普通じゃない! 人の足を奪った。だから、何も怖いことはないんだから」


そう言って、静奈はわたしの首に両手をかけた。


憎しみなのか、悲しみなのか、葛藤なのか。


静奈の指に強い力が込められた。


静奈の唇が動く。


「今、ここで、真央を殺すことだって簡単だよ」


静奈の目が血走っていた。


苦しい。


呼吸が難しくなってくる。


信じられなかった。


静奈の唇が信じられなかった。


「私は、犯罪者同然なの。順也の足を奪ったんだから」


静奈に話し掛けたかったけれど、わたしの両手からは力が抜けていた。