恋時雨~恋、ときどき、涙~

だから、耳が聴こえる人たちは、毎日、楽しいのだろうとわたしは思っていた。


好きな音楽を聴いたり、映画を観たり。


わたしには、それができない。


だから、わたしの毎日は人よりつまらないのだと思っていた。


海を見つめているわたしの顔の前に、大きな手が伸びてきた。


顔を上げると、ライオン丸が笑っていた。


「友達に、なってくれますか?」


わたしは、その手を叩いて払った。


不思議だった。


なぜ、わざわざ、ろうあであるわたしと友達になろうとしているのか、理解できなかった。


バカにされて、面白がられているのだ、とわたしはひとり思い込んだ。


ぽかんと口を開けて、間の抜けた顔をしているライオン丸に背を向けて、車に引き返した時、大きな手がわたしの腕を強く引っ張った。