恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんがドアノブに手をかける。


わたしは、息を呑んだ。


鍵が外れて、ドアが開く。


全てがスローモーションだった。


わたしは瞬きを忘れてしまった。


健ちゃんは「よう」と陽気に右手を上げて、その人の腕を引っ張り入れた。


さっきよりもゆっくり、わたしは息を呑んだ。


言葉がでない。


体も動かなかった。


光沢のあるパンプス。


デニムのミニスカートから伸びる、華奢で形のいい長い足。


白いトレンチコート。


トートバッグを持つ、華奢な指。


セミロングよりも3センチくらい長い、明るい色の髪の毛。


夜の、濃い化粧。


その子を見た瞬間に、わたしの心臓は締め付けられた。


息が止まった。


「真央……なんで……」


静奈の唇が、そう言った。


もともと色っぽい唇は、グロスがぼってりと厚く重ねられていた。


熱して溶かしたマーガリンのように艶やかで、あでやかな艶だった。


「どうなってんのよ」


わたしと健ちゃんを何度も見たあと、静奈の顔が青ざめていくのが見えた。