恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしと健ちゃんは、近くのホテルに向かった。


そこは、異様な、現実とはかけ離れた光景が広がっていた。


ラブホテルという建物に入ったのは、勿論、初めてだった。


大きな大きな、固そうなベッド。


仄明るい照明。


大画面のテレビ。


2人座ると窮屈なソファー。


ソファーに腰掛けるや否や、健ちゃんは雑誌に記載されてあった番号に電話をかけた。


わたしは、健ちゃんの唇を読み取った。


健ちゃんは「なぎさ」という意中の人物を指名していた。


どこか、緊張した面持ちだ。


健ちゃんの横顔が強ばっている。


その緊張感が、手にとるように分かった。


わたしも緊張していた。


本当に静奈だったら、どうしよう。


そう思う反面、静奈であって欲しいとも思った。


もし、静奈じゃなかったら、また振り出しに戻ってしまうことになる。


もう、静奈に会えないよりは、こんな形だとしても会いたい気持ちの方が勝っていた。


でも、まさか、あんな修羅場に遭遇するなんて、わたしも健ちゃんも、そこまでは予想できていなかった。