恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんは、呆れたような顔をしていた。


「なに隠してんの? 真央」


わたしは首を振った。


隠している事は、言えない。


「それじゃあ、分かんねんけ」


健ちゃんの眉間に、深いしわが集まった。


わたしは、もう一度、首を振った。


健ちゃんの両手が、ゆっくり動く。


「訳が分かんねんけ。ただ、何でそんな物を真央が持ってるのか、訊いただけだろ?」


何でそんなに慌てるんだよ、と健ちゃんは肩をすくめた。


〈本当に、何でもない。ただ、友達から預かってるだけ〉


「嘘つくな」


〈嘘じゃない〉


健ちゃんは、わたしを、悲しい目で見つめた。


「おれ、そんなに頼りねえかな」


健ちゃんの両手が、小さく弱く動く。


「真央を好きになって、話したくて、夢中になって手話覚えて。付き合うことができて、ひとりでいい気になってたのかな」


〈違う〉


わたしは強く首を振った。


健ちゃんは苦笑いをして、わたしの頭を優しい力で叩いた。


健ちゃんの手のひらは、少しひんやりしていた。


「いいよ、分かった。もう、深く訊かない。それ、鞄にしまえ。でもな、真央」