恋時雨~恋、ときどき、涙~

怖い、でも、不安そうな表情を健ちゃんはしていた。


車に乗り、間も無く、健ちゃんは何の前触れもなく、わたしの鞄をひったくった。


わたしは、健ちゃんの肩を強く叩いて睨み付けた。


〈何するの! 返して!〉


健ちゃんは冷静で無表情で、わたしの鞄に右手を突っ込んだ。


「これ、なに?」


健ちゃんが取り出した物を見て、わたしの両手から力が抜けて行くのが分かった。


わたしは、言葉を失った。


「なんで、こんなもの持ってんの? 真央……お前、風俗やろうとしてんのか?」


しまった。


わたしの心臓が、不快な何かで包まれていた。


〈違う!〉


健ちゃんが目を細めて、疑心の塊の瞳を投げてくる。


「じゃあ、何で、これが鞄に入ってんの?」


健ちゃんの手話を見たあと、わたしは顔を上げれなかった。


日中の出来事が、走馬灯のように目の裏側でぐるぐる回る。


健ちゃんが、わたしの肩を叩いた。


でも、わたしは無視した。


その雑誌に載っている1人の女の子が、静奈かもしれない。


静奈が、風俗をしているかもしれない。


そんなこと、言えるはずがなかった。