恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは頷いて、鞄から財布を引っ張り出した。


18歳の誕生日に、お父さんが買ってくれたクリスチャンディオールの長財布。


わたしの宝物だ。


1円玉を差し出すと、健ちゃんがへんな目でわたしを見ていた。


まるで、わたしを疑うような怖い目だった。


わたしは、右手の人差し指を左右に振った。


〈どうしたの?〉


もう一度、1円玉を差し出すと、健ちゃんは「いや」と腑に落ちない表情で、会計を済ませた。


受け取ったレシートを手のひらで乱暴に丸めて、健ちゃんはわたしの腕を引っ張り、店を飛び出した。


強い力だった。


ファミリーレストランの外に出て、わたしが抵抗する前に、健ちゃんが手を離した。


わたしは、右腕をじっと見詰めた。


擦りむいたわけでもないのに、皮膚がひりひりした。


空気がつめたい。


夜空に、秋の星座が瞬き始めていた。


「ちょっと、訊きたいことがあるんだけど」


〈なに?〉


「とりあえず、車に乗って」


そう手話をして、健ちゃんはすたすたと車へ向かった。