恋時雨~恋、ときどき、涙~

びっくりした。


耳が聴こえないのはどんな感じなのかを訊かれたのは、生まれて初めてだったからだ。


かかりつけの医師にも、順也でさえ、そんな事を誰も訊こうとしないのに。


少しも悪びれる事なく、あっけらかんとしてそんな事を訊かれたのもまた、初めてだ。


たいていの人は、さっきのしおりさんやわたるさんのような顔をして、わたしに距離を置いてしまうのが普通だ。


そして、困ったと言わんばかりにへんな顔をする。


同情されるか、困った目でわたしを見る。


必要以上の事は、一切、訊いてこない。


ライオン丸は、固まるわたしの肩を馴れ馴れしく小突いてきた。


「音がない世界って、どんな感じ?」