恋時雨~恋、ときどき、涙~

普段は筆談すらしたことがないだけに、わたしはそっけない態度で目を反らした。


でも、中島くんはわたしの隣に座った。


なに?


けげんな目で見るわたしに、中島くんが何かを言った。


でも、唇の動きが速すぎて、わたしには読み取ることができなかった。


わたしはフォークを置いて、鞄からメモ帳とボールペンを取り出した。


【ごめんね
 ゆっくり話してくれないと分からない】


「あ……そうなんだ。ごめんね。えっと、わ、か、る?」


と中島くんは、今度は大きな口でゆっくりゆっくり話してくれた。


たぶん、悪い人じゃないんだと直感的に思った。


調理実習の時はいつも無表情で手を動かしているのに、笑った顔が優しかったからだ。


白と紺色のラガーシャツがとても良く似合う、スポーツマンのような人だ。


わたしは微笑みながら頷いた。


【分かる
 ありがとう】


メモ帳を見せると、中島くんは「よかった」と笑った。


少し、嬉しかった。


調理実習の時でさえコミュニケーションをとった事がなく、わたしは中島くんが怖かったのだ。


体は大きいし、いつも不機嫌そうな顔しか見た事がなかったから。