恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈ごめんね〉


謝りながら駆けて行くと、


「で、仲直りできた?」


と順也が笑った。


わたしは頷き、健ちゃんが手を繋いできた。


そして、八重歯を見せて笑いながら、順也に言った。


「付き合うことになったんけ。お兄さま」


「お……兄さま……」


順也の笑顔が、みるみるうちにひきつった。


「お兄さまはやめてよ、健太さん」


わたしは笑ってしまった。


「だって、真央にとって順也はお兄ちゃんだろ。なら、いずれはおれの兄さんになるかもしれねんけ」


「早すぎますって」


と順也は肩をがっくりさせてから、それから、大きな口で笑った。


「まだ、嫁に出す気はないですよ」


「頑張ります。お兄さま」


ぺこりとライオンのような頭を下げて、


「全員まとめて送ってくんけ」


と手話をして、健ちゃんは車を回しに行った。


順也が、目を丸くしている。


手話ができるようになっていた健ちゃんに、はなはだ驚いたらしい。


太ももにバスケットボールを置いて、優しい手話をする。


「覚悟を決めた。真央に会いたい。短大おしえてくれって。今日、仕事休んだらしいよ……そういうことだったのか」